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あの庭の扉をあけたとき


「強情っておもしろいの?」

「そりゃあ、おもしろいわよ。
 強情でない人がどうして生きているのか
 わからないわ。
 毎日がすごく退屈だと思うわ」

すべての、ごうじょっぱりの人に、
この、バラの美しい庭の印象的なものがたりを。



佐野洋子 作 偕成社


お父さんとの散歩の途中でみつけた、
昔は立派だったであろう、洋館の廃屋。

ある日通りかかると、家は息を吹き返し、
花の咲き乱れる、美しい庭ができていました。
おばあさんがひとり、引越してきたのです。

口の悪い、そのおばあさんを
恐れながらも惹かれる、5歳の<わたし>。

その後、ジフテリアにかかり、
病院で長く過ごすことになった<わたし>は、
ある夜、ひとりの少女に導かれ
そのあばあさんの過去の記憶をのぞくことになり・・・


5歳の少女の見る、70歳の老婆の記憶。

強情な少女と強情な少年の、うもれた歴史と
その強情ゆえの、切ない結末。
その強情ゆえの、今。

ふたりの記憶は、ひととき、混じり合う。

5歳も14歳も70歳も、今、を持ってるだけでなく
これまで生きてきたすべての時間を、全部持っているから。

過ぎてきた時間は、薄れていくのでも、消えていくのでもなく、
すべてが<わたし>の一部だから。

人は、とてつもなく大きなものを持って、
生きているんだなあ。


まるごと抱えて生きる覚悟のある、強情なみなさん。

佐野洋子さんが、
スッとカーブをかけて投げる、そんな人たちへのやさしさ。

ストレートで思いきり投げる、
たくましい横顔、かっこいい言葉の数々。
受け止めてみてください。

ケルトの白馬


何年かおきに、何度も読み返す本です。

手にとると、こんな小さくうすい本に
ほんとうにあんな感動があったのかと疑い、
また今回も同じくらい心を揺さぶられるだろうか・・・
と、どこか心配になるのですが、
それは、いつも、杞憂におわります。


ローズマリー・サトクリフ 作 灰島かり 訳
ほるぷ出版


イギリス、バークシャーの丘陵地帯に今も残る
地肌の白い土を削って描いた巨大な白馬。

一体、いつ、だれが、なんのために
この軽やかに丘を空を翔るこの白馬を描いたのか・・・
サトクリフの答えが、この物語です。


誇り高き戦士の民、ケルトの部族の族長の息子でありながら
先住民の血が混ざり、褐色の肌をしたルブリンは、
次第に、音を、声を、風を、捉えて描きだす
ものつくりの人としての才能を目覚めさせます。

おだやかに、四季がくり返され、
仲間とともに戦士の訓練を受けるようになったルブリン。

やがて、一人前の男と認められるようになった
ルブリンたちのもとへ届く戦のうわさが、現実味を帯びはじめ・・・


どこか変わった空気をまとうルブリンが、厳しい運命の中で、
一族の誇りを、血を、友情を、自らの誇りを、才能を、
全うする様を描いた物語です。

敵族の長クドラックの、最後のことば。

「自由になれ、わが弟」

運命の重みと、確かさ、
その中にある一粒の自由の、重さと大きさに
心をがしっとつかまれ、揺さぶられます。


遠く、遠く、ケルトの物語ときいて、手にとりにくいという方も。

一晩で読み切れるほど、みじかいのです。
だまされたと思って・・・この読後感を味わってほしい、
珠玉の作品です。

クラバート


ことり文庫の棚に並ぶ本の中で

秋の夜長に
眠れない夜に
眠りたくない夜に
どこか遠くへ行きたい夜に

読むべき本は、このファンタジー。

これほどまでに、
時を味あわせてくれる物語には
そう簡単には出会えません。

クラバートとともに過ごした
ずっしりとした3年間を
もう一度つかまえようと目を閉じれば、すうっと、夢の中。



プロイスラー 作 中村浩三 訳
偕成社 1680円


17世紀から18世紀にかけての
ドイツ東部、ラウジッツ地方。

ある、新年。
仲間と物乞いをして暮らしていた14歳の少年
クラバートは、不思議な夢に導かれ、
ひとり、ある水車場にたどりつく。

そこは、コーゼル湿地という、ものさみしい荒野にあり、
近くの農民は、決して近づくことのない、粉屋の水車場だった。

親方だと名乗る、片目の男と向かい合ったときから、
クラバートの運命は、動き始める。

粉屋は表向きで、じつは秘密めいた魔法学校でもある
その水車小屋で、ほかの12人の職人たちとともに、
親方に運命を握られたまま、終焉を待つのか、それとも・・・


プロイスラーが、11年の歳月を費やして織り上げた
重厚なファンタジーです。

終始、深い霧か夜の闇に包まれているような
しっとりとした重厚な空気をまとい、
その中を、手探りで信念をもって歩むように、物語は進みます。

自由、友情、愛と勇気。

そんな、絵空事のような言葉が、
目の前でたしかに繰り広げられる、壮大な物語を
魔法なんて・・・などと思わず、
おとなの人にも、読んでほしいです。

・     ・     ・

こんな物語を読み終えて
本をパタンととじるときの、あの感覚は至福。

たしかに目の前にあったはずの風景が、体験したはずの時間が
体にかんじる少しの疲労感や高揚感を残して、
この、手の中の、小さな1冊の本の中に、折り畳まれて仕舞われてしまう。

あ、と思って、またパラっとめくっても、
それは、もう、ただの文字の列でしかないのです。

もう一度、最初の1文を丁寧に追う気になる、そのときまで、
表紙の間でひっそりとひそむ物語が、ずらっと並ぶ本棚。

そんな本棚の前で、ぼんやりしているだけでも、秋の夜長はすぎていきます。

王への手紙


遠い昔、まだ騎士たちがいたころの物語。

長い見習い期間を経て選ばれた5人の若者が
叙任式の前夜、最後の試練として挑んだ礼拝堂での断食の最中、
静寂をやぶって、扉をたたき助けを乞う声が聞こえた。

この夜は、食べること話すこと眠ることの一切が禁じられ
ひたすらに岸としての責務と向かい合わなければいけない、という掟をやぶり、
その声にこたえたティウリは、騎士になる道を捨て、
見知らぬ男からあずかった重大な手紙を
隣国の王へ届ける、という運命を背負うことになる・・・

次々にあらわれる、得体の知れない敵に追われながら、
まっすぐ一本道の、行きて帰りし冒険物語。


与えられた任務に戸惑いながらも
頼りになる味方の騎士と出会い、旅の道連れを得る前半から、
徐々に自身を身につけ、堂々と運命を受け入れて立ち向かう後半へ
物語は深みを増していきます。


  

トンヶ・ドラフト 作 西村由美 訳 岩波少年文庫
(上)840円 (下)798円


ドキドキに弱いわたしは、最初に読んだとき、
なんども、目次をみて、展開を予測しながら・・・という、
邪道な読み方をしてしまいました。

でも、そんな必要もないほど、
冒険の中で、正しいものが当然の加護を受けるという展開が、
先へ先へ、ぐんぐんと力強く
読者を誘う要因のひとつではないでしょうか。

もちろん、現実はそうはいかなくても、
運命のあるべき姿がこうであると信じられることが、
最後までとても気持ちがいいのです。

目的を成し遂げて、国へ帰る道々のお礼行脚もいいです。

旅の途中で会った、魅力的な人々が、
ただ、旅を手助けするために生まれた(登場した)だけでなく
描かれていなくてもそれぞれの速度と密度で毎日を生きているー
そう感じられることが、こころからうれしくなります。

あたりまえのことのようで、そんな物語、めったに出会えませんもん。

・      ・     ・

騎士?冒険?
そういうのはちょっと・・・

と、思う人も、いるでしょう?

でも、とっつきにくそうにみえて、
実はとてもシンプルで読みやすく、それでいて
この達成感。

食わず嫌いは、もったいないよ。


忘れ川をこえた子どもたち


ファンタジーの中でも、
その異世界そのものを描いたものよりも、人を描いたものが、
やっぱり好きです。

この、北欧のファンタジーも、とても印象深く
何度も読み返す物語の、ひとつです。



マリア・グリーペ 作 大久保貞子 訳
冨山房 1529円


誇り高き、貧しいガラス職人のアルベルトには、
妻と、2人の子どもークラースとクララがいた。

暮らしに余裕はなかったけれど、打ち込める仕事があり、
子どもがいて、なんとかごはんも食べられ、寝るところもあって、
アルベルトは、この生活にいちおうは満足していた。

けれど、妻のソフィアは・・・

ソフィアの胸には、ぽっかりとした穴があって、
そこには、小さな不満やかなしみ、もうすこし豊かになれれば・・
という想いが、いつもあった。

ある、市のたつ日、
思いがけずに、アルベルトのガラスが売れ、
お金を手にしたふたりは、月の光に導かれるように
夜の市で露天商からある指輪を買った。

こころの穴をみつめるような、
そのあやしく、美しい指輪が、悪いことのはじまりだった。

そして、それから一年もたった、同じ市の日に、
子どもたちが、ふたりの前から、いなくなってしまった・・・

・     ・     ・ 

幻想的な、異国の空気。

不思議な力をもつ指輪。

子どもたちのさらわれた、忘れ川のむこうの
町になれなかった町にある、大きな館。

こころに、それぞれの痛みや闇を抱える、館の住人たち。

予言者に、片目の大ガラス。

対決。

いかにもファンタジーらしいアイテムや状況がそろった、
さほど長くもないこの物語が、ゆるぎない普遍性をもち、
長い間、子どもだけでなく、おとなの読者をも満足させられているのは、
神話や伝承をモチーフにしながら、
作者が描くのが、生身の人間だから。

彼女の、人間の本質を見る目は、するどく、確かで、
でも、包容力があって、
暗く悪い人ばかりが登場するように感じても、
「昼の目」と「夜の目」を使ってみれば
性根が悪い人はいなくて、みんな自分の思いばかり
不器用に抱えて身動きのとれなくなってしまった人たちだと、わかります。

そして・・・

北欧の、凛と澄んだ空気のイメージとよく合った、
全体を通して、厳しく、美しい描写が、すばらしいです。

とっぷりと、そのなかに身を置いて、
想像できるぎりぎりいっぱいの、さみしさや心細さ、
その末に手にする、小さくても、きれいにかがやく喜びを、
たくさん、感じます。