遠い昔、まだ騎士たちがいたころの物語。
長い見習い期間を経て選ばれた5人の若者が
叙任式の前夜、最後の試練として挑んだ礼拝堂での断食の最中、
静寂をやぶって、扉をたたき助けを乞う声が聞こえた。
この夜は、食べること話すこと眠ることの一切が禁じられ
ひたすらに岸としての責務と向かい合わなければいけない、という掟をやぶり、
その声にこたえたティウリは、騎士になる道を捨て、
見知らぬ男からあずかった重大な手紙を
隣国の王へ届ける、という運命を背負うことになる・・・
次々にあらわれる、得体の知れない敵に追われながら、
まっすぐ一本道の、行きて帰りし冒険物語。
与えられた任務に戸惑いながらも
頼りになる味方の騎士と出会い、旅の道連れを得る前半から、
徐々に自身を身につけ、堂々と運命を受け入れて立ち向かう後半へ
物語は深みを増していきます。
トンヶ・ドラフト 作 西村由美 訳 岩波少年文庫
(上)840円 (下)798円
ドキドキに弱いわたしは、最初に読んだとき、
なんども、目次をみて、展開を予測しながら・・・という、
邪道な読み方をしてしまいました。
でも、そんな必要もないほど、
冒険の中で、正しいものが当然の加護を受けるという展開が、
先へ先へ、ぐんぐんと力強く
読者を誘う要因のひとつではないでしょうか。
もちろん、現実はそうはいかなくても、
運命のあるべき姿がこうであると信じられることが、
最後までとても気持ちがいいのです。
目的を成し遂げて、国へ帰る道々のお礼行脚もいいです。
旅の途中で会った、魅力的な人々が、
ただ、旅を手助けするために生まれた(登場した)だけでなく
描かれていなくてもそれぞれの速度と密度で毎日を生きているー
そう感じられることが、こころからうれしくなります。
あたりまえのことのようで、そんな物語、めったに出会えませんもん。
・ ・ ・
騎士?冒険?
そういうのはちょっと・・・
と、思う人も、いるでしょう?
でも、とっつきにくそうにみえて、
実はとてもシンプルで読みやすく、それでいて
この達成感。
食わず嫌いは、もったいないよ。